TRANS・BRASIL ブラジル往復
 
 
018「ストロベリージャムとゴイアバーダ」

年末のブラジル行きは、久しぶりにリラックスした。というのも、ここ4年間ほど、ワインの試験勉強(WSETのディプロマ)のために、常に資料をどっさり抱えて旅をしており、飛行機やバスの中で、あるいは待ち時間や休息時間に、ずっと目を通していたからだ。試験のことが気になって、旅先の風景がちゃんと見えていなかった。今回は初心にかえった旅だった。

ブラジル行きの飛行機に乗るたび、初めて行った時の機内での出来事を思い出す。当時はヴァリクブラジル航空で、私は大柄のブラジル人男性に挟まれ、真ん中の席に座っていた。まだインターネットで事前チェックインなどできなかった時代だ。

着陸近くになって出た朝食を、食べ終えた右と左のブラジル人男性が突然、大事に(?)とっておいたストロベリージャムを、デザートのように、スプーンですくって食べはじめた。2人がほぼ同時にあの小さなジャムを食べはじめたので、びっくりした。

しばらくブラジルで暮らし、ゴイアバーダというデザートを知った。グアバの果汁と果肉を砂糖で煮詰め、羊羹のように固めたポピュラーなデザート菓子で、地方へ行くと、今でも折詰弁当のように木箱に入ったものが販売されている。スーパーなどで販売しているものは、缶詰、またはプラスティックの容器に入ったものが多い。ジャムのように柔らかめのものもあれば、羊羹以上に粘りの強いものもある。

ゴイアバーダには、ミナス・ジェライス産のチーズを添えることが多く、このデザートを「ホメウ・エ・ジュリエッタ(ロミオとジュリエット)」と言う。チーズはフレスカル(フレッシュ)、メイア・クーラ(少し熟成)、クラード(熟成)と熟成段階が色々あるが、ゴイアバーダにはまだ柔らかなフレスカルが合う。ゴイアバーダはとても甘いので、私には一口くらいで充分で、チーズと合わせるとちょうどいい。ほかにも細かく刻んだり、煮溶かしてケーキの生地にまぜたり、刻んだものをクッキーのトッピングに使うなど、利用方法がいろいろある。ほんの少しをアクセントとして使う方が面白そうだ。

このブラジリアン羊羹は、グアバ以外のフルーツでも作られる。よく見かけるのがバナナで作るバナナーダとかりんで作るマルメラーダ。ブラジル南部のワイン産地へ行くと、ぶどうで作ったウヴァーダに出会う。

日本の羊羹は、ブラジル人の友人の間で評判がいい。ブラジルでは豆は塩味で調理するが、彼らの食事に欠かせない、大切な食材である豆が、ブラジルでポピュラーなデザートに化けることが新鮮な驚きのようだ。

ゴイアバーダの材料はグアバと水と砂糖だけ。レシピは色々あるが、ドイツではまずグアバが手に入らない。ドイツで売られているバナナも凝縮度がもうひとつ。かりんかぶどうで作ってみるのが良さそうだ。ぶどうならドルンフェルダーなどが良いのではないだろうか? すると名前はドルンフェルダーダ?

機内で隣り合わせた2人のブラジル人は、きっとデザートのゴイアバーダ代わりにジャムを食べたのだろうと思う。

(ゴイアバーダのオリジナルは、おそらくマルメロ(かりん)から作られたマルメラーダというポルトガルのお菓子だろう。もとは修道院で作られていたお菓子だそうだ。マーマレードの語源は、このマルメラーダらしい。)
 
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