BACK TO HAMBURG 追憶のハンブルク・未知のドイツ
 
 
002「ボローニアを思い出す コロナーデン」

Colonnaden(コロナーデン)。この通りで、ドイツで初めてのアルバイトが見つかったので、私にとっては自立の手がかりとなった忘れ難いストリート。80年代後半のことで、毎日この通りの日系事務所に通った。その事務所は今はもうない。でも、通り自体は当時の雰囲気が残っていて、懐かしい街並みだ。

90年代のはじめ、友人を訪ねてボローニアに行ったとき、カップにへばりついているだけのとろりとしたエスプレッソにも驚いたけれど、2階以上の増築によってできたアーケード(ポルティコ)いっぱいの街並にもびっくりした。アーケードがあれば、雨宿りのときも、立ち止まらずにどんどん歩いて行ける。厳しい直射日光だって遮ってくれる。

コロナーデンには古都ボローニアを彷彿させるアーケードがある。角のスターバックスから、バルザックカフェ1号店の手前までの、ほんの100メートルほどのアーケードだ。そのなかほどには「Bocksbeutel(ボックスボイテル)」というフランケンワインを扱うワインバーがあり、いつも大勢の人で賑わっている。ボックスボイテルとはまるっこいフランケンワインのボトルの名称だ。

アーケード、柱廊、あるいは回廊ー。教会や修道院の中庭などによくあるこの空間が、私はとても好きだ。太陽が燦々と降り注ぎ、緑がまぶしい中庭を、ひんやりした回廊を散歩しながら眺める。緑を打つ激しい雨をまぢかに感じながら、濡れずに散策するー。それはとても贅沢な場所だ。

アーケードでもうひとつ思い出すのは、両親の実家のある兵庫県豊岡市。かつては柳行李の産地として知られた街で、母の実家は、私が子供の頃はまだ柳行李とバスケットの工場だった。雪国豊岡の市街地には雪よけのアーケードがあって、雨の日も雪の日も、子供の足で行ける範囲なら、どこまでも傘なしで歩いて行けた。

コロナーデンのアーケードを過ぎ、さらに進んでゆくと、数年前、雑誌「ファインシュメッカー」のタイトル記事としても紹介された、和食レストラン「まつみ」がある。実はこの「まつみ」のご主人で板前さんの森田英明さんと一緒に本をつくったことがある。ハンブルク在住のコミック作家イザベル・クライツと2人で、森田さんの仕事を追いかけ、「Sushi Entdecken」(Carlsen Verlag)という小さな本にまとめた。(003「ハンブルクの小さな築地」参照)寿司を全く知らないドイツ人がターゲットで、イザベルは森田さんの仕事ぶりをユーモラスに描いてくれた。レストランにはイザベルのコミックのイラストも飾られている。

「まつみ」の隣や向かいに「コロン(Colón)」という語学学校の教室がある。私は3年前からここでブラジル・ポルトガル語を習っている。毎週木曜日はコロナーデンのポルトガル・カフェ「カラヴェーラ(Caravela)」の2号店が深夜まで開いていて、世界中から集まる語学学校の生徒たちのシュタムティッシュ(Stammtisch)、つまり常連の集まる場となっている。語学学校の学生でなくても、この時間にカフェへ行くと、本当に色々な国籍の人に出会える。私も木曜の夜にここで知り合った友人が何人かいる。ハンブルクにはポルトガル・カフェが80軒くらいあると言われており、地元の人たちにはスターバックスよりも愛されている。
 
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