TRANS・BRASIL ブラジル往復
 
 
005「フェイラへ」

サンパウロの街歩きで何より楽しいのは、フェイラ・リヴリ(feira livre)、青空市場だ。もちろん屋内型の市場、例えば、サンベントのメルカード・ムニシパウ(市営市場)や、ラパのメルカードも楽しいけれど、ごく普通の住宅街に突如あらわれる青空市場がやっぱり一番面白い。知らない街で、名所巡りよりも、市場巡りのほうが楽しいのは、その街の素顔に、懐に、台所に、いきなり飛び込んでいけるからだろう。

サンパウロ市内には、数えきれないほどの青空市場がたっているような気がする。行動範囲の狭い私だが、オサスコの青空市場は2カ所出会ったし、友人の住むサウジ地区の市場に出会ったこともある。研修先のブッタンタの雑誌編集部の近所にもあった。

青空市場はどれも、簡単な木の台に商品を並べ、テントを張っただけの、バハカ(barraca)と呼ばれる屋台風のつくり。ドイツのように、一見普通のトラックが、そのボディをパカッとひらいて、いきなり店舗に変身するような、機能的な市場ではない。どちらかというと、アジアの朝市の雰囲気に似ている。

青空市場へ出かけると、まずはパステウ(Pastel)の屋台に直行。パステウは、ドイツ人にとってのソーセージのように、ブラジルでは最もポピュラーなスナックのひとつ。正式にはパステウ・シネーズ(Pastel Chinês)、つまりチャイナ・パステウと言う。巨大な揚げ餃子(揚げワンタン)みたいなもので、大きいものだと15センチ角ほどあるだろうか。中身は挽肉だったり、チーズだったり、パウミート(椰子の芽)だったり、エビだったり、いろいろ。

腹ごしらえをしたら、市場を探険。市場の片隅には、たいてい海賊版のCDとDVDの屋台が堂々と出ていて、繁盛している。もちろん違法だから、警察の姿が見えると、彼らは一瞬のうちに荷物をまとめて消える。でも、緊迫感などはなく、頼めば試聴もさせてくれる。

市場の大部分を構成しているのは、野菜と果物の売り手たち。ところどころに、日系人らしい顔がみえる。思い切って話しかけてみたら、やはり日系人、ということが多い。日本語は通じたり、通じなかったりする。青空市場を一巡りするだけで、日系人が、ブラジルにおける野菜づくりに、とても貢献していることがよくわかる。懐かしい顔のおじちゃんやお兄ちゃんが、まるで今朝掘ったばかりみたいなたけのこや、さといもなどを普通に売っているので、ここは一体どこなんだと、不思議な気持ちになる。魚屋に行けば、たいてい刺身のパックが並んでいる。頼めば、特に説明しなくても、ごく普通のブラジル人のおっちゃんが、欲しい魚を即座に刺身用にカットしてくれる。

サンパウロ滞在中は、よく料理をした。今でも、滞在するたび、料理ばかりしている。友達の家にやっかいになるときは決まって料理番だ。美と健康を追及するブラジル人の友人たちにとって、私のつくる日本のごく普通のお惣菜は、ベジタリアンメニューじゃなくても、マクロビオティックじゃなくても、普通のおにぎりでも、憧れの対象らしい。私は、といえば、こんなに新鮮な、懐かしい味の素材が、いとも簡単に手に入るので、料理せずにはいられない。

 

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