TRANS・BRASIL ブラジル往復
 
 
006「日系人の胃袋」

ブラジルでとても気に入っているのが、ビュフェスタイルの量り売りレストラン。1キロ当りの値段が決まっていて、食べるぶんだけ支払うというものだ。日系人や在住日本人の間では「ポルキロ(por Kilo)」と呼ばれている。ランチタイムだけのレストランがほとんどで、店内は社員食堂のような雰囲気だ。

ブラジルのレストランと言えば、シュラスコ(ガウショ風のバーベキュー)を出すシュラスカリア(Churrascaria)が有名だ。一定料金で食べ放題、というところが多く、長い串に刺した焼きたての肉が、ひっきりなしに食卓まで運ばれ、ギャルソンが目の前で削ぎ切りしてくれる。副菜やサラダ、デザートはビュフェスタイルでこれも食べ放題。このレストランのシステムは「ホディツィオ(Rodízio)」という。

シュラスコの他には、寿司のホディツィオ(Rodizio-Sushi)というのもあって、こちらは、ビュフェスタイルの一定料金で寿司食べ放題のレストラン。たいてい、寿司だけでなく、お惣菜も揃っている。

「ホディツィオ」は、若い人や大食漢にとっては嬉しいシステムだと思うが、食の細い人や、なるべく軽く食べたい人にはメリットがない。その点「ポルキロ」は非常に便利。できることなら、世界中にこんなレストランを作ってほしいくらいだ。残飯がでないので、エコロジー的にも優れていると思う。

ブラジルでのランチタイムには、この量り売りレストランをよく利用した。ブラジルの家庭料理をちょっとずつ色々試すことができるので、旅人にはありがたい。日本人街(リベルダージ)には、ブラジル料理と和食が両方味わえる量り売りレストランがあり、サンパウロ滞在中はよく利用している。

この量り売りレストランの場所だが、地元の人に教えてもらわなければ、絶対にわからなかった。入口は全くレストランらしくなく、看板さえない。わけのわからないまま、通路を入ってゆくと、待合室のようなソファコーナーがあり、その奥に宴会場のような広大なホールがある。片側にはガラス越しに中がのぞける大きなキッチンがあり、その前に、料理がずらりと並ぶ。ブラジル料理と和食の饗宴。刺身も寿司も酢の物も、焼きそばも、和風惣菜も、中華風惣菜も、フェイジャオン(豆の煮物)も、牛肉や鶏肉の煮込みも、なんでもある。サラダも豊富だし、みそ汁、デザートのフルーツ、お茶、コーヒーは無料。キロ当りのお値段は40レアル程度(約15ユーロ)で、私がどんなに食べても15レアル(約6ユーロ)を越えることはなかった。

このレストランに来ているのは、ほとんどが日系人とその家族や友人たちのようだった。大家族で食卓を囲んでいるひとたちもいる。向かいや隣に居合わせた、彼らのお皿の上の料理を見ながら、私はちょっぴり感動していた。お皿の上に、そのひとの胃袋の国籍が描かれていたからだ。寿司と酢の物、ブラジル風肉料理とフェイジャオンが半分ずつのっかった彼らのお皿を目にして、彼らはまさに日系ブラジル人なんだなあと思った。そう思って自分たちの皿に目をやると、私の皿の上は和食が9割。主人の皿の上はブラジル料理9割だった。

 

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