TRANS・BRASIL ブラジル往復
 
 
012「ライヴシティ サンパウロ」

これまでの人生で、音楽との決定的な出会いを2度経験している。1度目は1990年、沖縄音楽。2度目は2003年、MPB。

MPBはMusica Popular Brasileiraの略。直訳するとブラジル・ポピュラー・ミュージック。ブラジルのポップスのことだ。ただ、ポップスとは言っても、MPBには、ロックやレゲエなどのほか、ブラジル各地の伝統音楽、民族音楽の影響が強く現れている曲が多く、民族音楽が多彩であるぶんだけ、MPBも多彩で幅広い。ブラジル人にとってのアイデンティティともいえるMPBは、今では、私にとっても、なくてはならない音楽になってしまった。

2003年に初めてブラジルに旅した時、初日からMPBにはまってしまった。いや、正確には、ブラジルへ向かう大西洋上ではまった。VARIG機の機内ラジオから聞こえてきたマリザ・モンチ(Marisa Monte)にすっかり夢中になってしまったのだ。一方、クラシック音楽の本場ドイツに、20年以上も住んでいながら、こちらの音楽にはまだ、はまったことがない。まだ時が満ちていないのだろうかー。

滞在中は、イヴェントスケジュールガイドのショウ欄を隅々までチェックし、片っ端から出かける。空港に到着するや、SESCインターラゴスでレニーニ(Lenine)のショウがあることを知り、義兄の家に荷物を預け、会場にすっ飛んで行ったこともある。

SESC(Serviço Social do Comércio/ブラジル商業・社会サービス連盟/セスキ)は、ブラジル商業連盟に属する社団法人。国民の文化、教養、社会福祉環境の向上を目指し、文化事業に力を入れている。大サンパウロ圏だけで、18もの文化センターを運営しており、私がこれまでに観たショウの多くは、SESCポンペイア、SESCピニェイロスなど、あちこちのSESCで開催されたものだった。

パウリスタ大通りにはFIESP(Federação das Indústrias do Estado de São Paulo/サンパウロ工業連盟/フィエスピ)の文化センターがある。ここで観たショウは、たしかいずれも無料だった。フランス系の書籍、CD、DVDおよび娯楽用エレクトロニクス・ショップ、fnacで行われるポケット・ショウにもよく出かけた。ここのショウも無料。他にも、サンパウロ・文化センター(Centro Cultural São Paulo)や銀行などの運営する文化センターがあり、長期滞在していた頃は、こういった文化センターにばかり通い詰めていたような気がする。

沢山のショウに通いながら、私はライヴの楽しさ、面白さに開眼した。ライヴ演奏中に、ミュージシャンと一緒に合唱する観客たち、そして、ショウ終了後、ごく自然にファンと談笑する、気さくなミュージシャンたち・・・。同じ曲であっても、歌い手が違うとまるで別の曲に変貌してしまうことの面白さー。

前世紀、こんなに音楽に夢中になっている自分を、想像することはできなかった。サンパウロは、私にとって、MPBの、いや音楽の学校だ。

(ショウの写真、下手ですが、お許しをー。)
 
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