BACK TO HAMBURG 追憶のハンブルク・未知のドイツ
ハーフェンシュトラーセのアパートのひとつ。1階は多国籍、雑多な人々が集まるクナイペ（バー）
たしかここにフォルクスキュッヘがあった
ベルンハルト・ノット・シュトラーセとハーフェンシュトラーセを結ぶ階段、バルドゥイン・トレッペ
ベルンハルト・ノット・シュトラーセ
020「港通り、住宅占拠の物語 ハーフェンシュトラーセ」
1985年2月、ドイツに移住して5ヶ月目、ハンブルクに引っ越しをした。最初に住んだケルンの街は、近郊のデュッセルドルフとともに、当時、前衛芸術の最前線で、非常にエキサイティングだったが、港町ハンブルクの空気を吸ったとき、なぜか安堵感を覚え、やっと自分らしく暮らせるような気がしはじめた。ハンブルクの街に、故郷の港町神戸を重ね合わせていたのかもしれない。
今回は、港町ハンブルクの、港通り（ハーフェンシュトラーセ）のお話。
港通り、という通り名には、ロマンティックな響きがある。しかし、ハンブルクのハーフェンシュトラーセ（Hafenstrasse）はちょっと違う。ハンブルクに住んでいる大人なら誰でも、ハーフェンシュトラーセのことを、かつて過激な抗争が起こった場所、反体制抵抗運動の拠点、左翼過激派の聖域として記憶している。
該当するのは、ハーフェンシュトラーセと、それに並行するベルンハルト・ノット・シュトラーセ（Bernhard-Nocht-Str.)にある、ハンブルク市営住宅会社、SAGA社所有だった12のアパート。いずれも築100年近く、老朽化し、住居には不適当と鑑定され、更地にしてアパートを新築する計画が進められた。新築となると、家賃は高騰し、環境も変わる。その計画に反対する人たちが、1981年頃から、解体される予定の住宅の空き家部分に侵入、占拠しはじめたのだ。
1982年にはいり、SAGA社は、住宅の1階の入口を塞ぎ、出入りできないようにしはじめる。すると、占拠者らは対抗して、アルトナ地区のSAGA社の事務所の入口を塞ごうとした。占拠者らは、住居の使用契約、電気系統の修理などを求め、断固として立ち退かない。1983年にはいると、SAGA社は占拠住宅に侵入するなどの強行策に出はじめた。
その後、住民らは3年間の契約書を手にし、自主的に住居の修理等を始めた。現在も部分的に残る外壁の派手なペイントは、この時期に描かれたものだという。派手な壁画は、ハーフェンシュトラーセのシンボルになった。
私がハンブルクにやってきた1985年、占拠者たちは、刑務所内のRAF（ドイツ赤軍）メンバーのハンガーストライキを支援し、ハーフェンシュトラーセにバリケードを張り巡らせ、火をつけるなど過激化していた。ハンブルク市側も警察を動員し、住宅の一部から彼らを強制的に立ち退きさせたり、電気の供給を止めたりするようになった。通りはものものしい雰囲気に包まれ、まるで小さな戦争が起きているようだった。占拠された住居にRAF関係者が出入りしているという疑惑を報じた新聞社との抗争、占拠範囲の拡大、警察の立入りなど、ハーフェンシュトラーセは常に新聞の紙面を賑わせていた。立入った警察が、占拠住民の食料やベッドに催涙ガスを噴射し、住居を破壊する行為に出ると、2000人規模のデモが行われ、それが、やがて1万人規模のデモに発展した。
3年の契約が切れた頃からは、海賊ラジオ局「ラジオ・ハーフェンシュトラーセ」が活動をはじめ、新たな契約締結を求める抗争が続いた。結局、当時のクラウス・フォン・ドナニ市長（SPD）が、バリケードの撤去などを条件に、契約延長を保証したため、約6年にわたる混乱は終息した。現在は協同組合が、これらのアパート群を所有しているそうだ。
あれは1988年だったか、ハーフェンシュトラーセの占拠アパートの地階にあったフォルクスキュッヘ（Volksküche）という食堂に行ったことがある。占拠アパートに出入りしていた知り合いに連れて行ってもらった。そこでは、1マルク出せば充分な食事ができた。自主運営の、低所得者のための食堂は、ハーフェンシュトラーセに関わる人たちの溜まり場になっていた。記憶は薄れかけているが、あの頃のドイツ左翼過激派の熱気とけだるさが濃縮されたような空間だった。
当時のあの過激な占拠者たちは、いったいどんな人たちだったのだろう？ 60年代の学生運動の伝統から生じた左翼、左翼過激派、リベラリスト、アナーキスト、社会的弱者・・・。彼らには政治的統一性はなく、その多くが明確な政治性を持っていなかったという。彼らは、ひっくるめて、アウトノーメ（Autonome／自主の、自治の）と呼ばれるが、アウトノーメを定義することは非常に困難だ。 原発や核廃棄物輸送に率先して抗議するのも、ネオナチにノーと言うのもアウトノーメ。ハンブルクには現在も、推定約500人のアウトノーメがいるという。一般の人たちのアウトノーメに対する眼差しは、報道において、その暴力的イメージが強調されるがゆえに厳しい。
ハーフェンシュトラーセでの抗争が終わり、現在、アウトノーメの巣はそこから約2キロ北にあるシャンツエン地区のローテ・フローラという旧劇場跡に移動している。ローテ・フローラについては、別の機会にー。
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1985年2月、ドイツに移住して5ヶ月目、ハンブルクに引っ越しをした。最初に住んだケルンの街は、近郊のデュッセルドルフとともに、当時、前衛芸術の最前線で、非常にエキサイティングだったが、港町ハンブルクの空気を吸ったとき、なぜか安堵感を覚え、やっと自分らしく暮らせるような気がしはじめた。ハンブルクの街に、故郷の港町神戸を重ね合わせていたのかもしれない。
今回は、港町ハンブルクの、港通り（ハーフェンシュトラーセ）のお話。
港通り、という通り名には、ロマンティックな響きがある。しかし、ハンブルクのハーフェンシュトラーセ（Hafenstrasse）はちょっと違う。ハンブルクに住んでいる大人なら誰でも、ハーフェンシュトラーセのことを、かつて過激な抗争が起こった場所、反体制抵抗運動の拠点、左翼過激派の聖域として記憶している。
該当するのは、ハーフェンシュトラーセと、それに並行するベルンハルト・ノット・シュトラーセ（Bernhard-Nocht-Str.)にある、ハンブルク市営住宅会社、SAGA社所有だった12のアパート。いずれも築100年近く、老朽化し、住居には不適当と鑑定され、更地にしてアパートを新築する計画が進められた。新築となると、家賃は高騰し、環境も変わる。その計画に反対する人たちが、1981年頃から、解体される予定の住宅の空き家部分に侵入、占拠しはじめたのだ。
1982年にはいり、SAGA社は、住宅の1階の入口を塞ぎ、出入りできないようにしはじめる。すると、占拠者らは対抗して、アルトナ地区のSAGA社の事務所の入口を塞ごうとした。占拠者らは、住居の使用契約、電気系統の修理などを求め、断固として立ち退かない。1983年にはいると、SAGA社は占拠住宅に侵入するなどの強行策に出はじめた。
その後、住民らは3年間の契約書を手にし、自主的に住居の修理等を始めた。現在も部分的に残る外壁の派手なペイントは、この時期に描かれたものだという。派手な壁画は、ハーフェンシュトラーセのシンボルになった。
私がハンブルクにやってきた1985年、占拠者たちは、刑務所内のRAF（ドイツ赤軍）メンバーのハンガーストライキを支援し、ハーフェンシュトラーセにバリケードを張り巡らせ、火をつけるなど過激化していた。ハンブルク市側も警察を動員し、住宅の一部から彼らを強制的に立ち退きさせたり、電気の供給を止めたりするようになった。通りはものものしい雰囲気に包まれ、まるで小さな戦争が起きているようだった。占拠された住居にRAF関係者が出入りしているという疑惑を報じた新聞社との抗争、占拠範囲の拡大、警察の立入りなど、ハーフェンシュトラーセは常に新聞の紙面を賑わせていた。立入った警察が、占拠住民の食料やベッドに催涙ガスを噴射し、住居を破壊する行為に出ると、2000人規模のデモが行われ、それが、やがて1万人規模のデモに発展した。
3年の契約が切れた頃からは、海賊ラジオ局「ラジオ・ハーフェンシュトラーセ」が活動をはじめ、新たな契約締結を求める抗争が続いた。結局、当時のクラウス・フォン・ドナニ市長（SPD）が、バリケードの撤去などを条件に、契約延長を保証したため、約6年にわたる混乱は終息した。現在は協同組合が、これらのアパート群を所有しているそうだ。
あれは1988年だったか、ハーフェンシュトラーセの占拠アパートの地階にあったフォルクスキュッヘ（Volksküche）という食堂に行ったことがある。占拠アパートに出入りしていた知り合いに連れて行ってもらった。そこでは、1マルク出せば充分な食事ができた。自主運営の、低所得者のための食堂は、ハーフェンシュトラーセに関わる人たちの溜まり場になっていた。記憶は薄れかけているが、あの頃のドイツ左翼過激派の熱気とけだるさが濃縮されたような空間だった。
当時のあの過激な占拠者たちは、いったいどんな人たちだったのだろう？ 60年代の学生運動の伝統から生じた左翼、左翼過激派、リベラリスト、アナーキスト、社会的弱者・・・。彼らには政治的統一性はなく、その多くが明確な政治性を持っていなかったという。彼らは、ひっくるめて、アウトノーメ（Autonome／自主の、自治の）と呼ばれるが、アウトノーメを定義することは非常に困難だ。 原発や核廃棄物輸送に率先して抗議するのも、ネオナチにノーと言うのもアウトノーメ。ハンブルクには現在も、推定約500人のアウトノーメがいるという。一般の人たちのアウトノーメに対する眼差しは、報道において、その暴力的イメージが強調されるがゆえに厳しい。
ハーフェンシュトラーセでの抗争が終わり、現在、アウトノーメの巣はそこから約2キロ北にあるシャンツエン地区のローテ・フローラという旧劇場跡に移動している。ローテ・フローラについては、別の機会にー。
