BACK TO HAMBURG 追憶のハンブルク・未知のドイツ
 
 
021「島のハンブルク ノイヴェルク」

干潮時に、海を歩いて渡れる島というのは、世界のあちこちにあるようだ。1989年夏、ロンドンからランズエンドへ向かう途中、コーンウォールのマラザイオンから、セント・マイケルズ・マウントという島に歩いて渡った。フランス、ノルマンディのモン・サン・ミシェルに似た、かつての巡礼地で、確か陸と島を結ぶ簡単な道が整っていたように記憶している。潮が満ちると、その道はすっぽり海にのまれ、陸と島はすっかり分断されてしまう。

島ではないが、 広島、厳島神社の大鳥居へは、自分で足場を確認しながら渡るので、セント・マイケルズ・マウントに渡るよりも、ほんの少しスリリングだった。2008年に訪れたときは、ひたひたと引いたり、あるいは寄せたりする潮を避けながら、砂が盛り上がったところをつたい歩きした。雄大な大鳥居は、子供にも、大人や老人にも、少しだけ海中散歩を体験させてくれる絶妙の位置にある。

ところで、ハンブルクにも、海を歩いて渡れる島がある。ハンブルク市の中心から、エルベ川を100キロほど下ったところに開ける北海に浮かぶ島、ノイヴェルクだ。北海に面した、ニーダーザクセン州クックスハーフェンの彼方に、その有人島は見える。

ハンブルクからこんなにも離れているけれど、この島はハンブルク市中央区の一地区となっている。ノイヴェルク島の隣の2つの島、シャールヘルン島(Scharhörn)とニーゲヘルン島(Nigehörn)も同様だ。

クックスハーフェンのビーチから、島までの距離は13キロほど。セント・マイケルズ・マウントや厳島神社の大鳥居のように簡単に渡れる距離ではない。島は、岸辺からだと、目を凝らさないと、よく見えない。

島に至るまでの広大な干潟を、ドイツ語でヴァット(Watt)という。潮風を身体一杯に浴びての干潟歩きは北ドイツの夏の風物詩。干潟は、北はデンマークから、西はオランダまで、450キロにわたって広がっているので、ノイヴェルク島だけでなく、あちこちで干潟歩きができる。

島への道のりは、プリッケン(Pricken)と呼ばれる、箒を逆さに突き刺したような目印が案内してくれる。この道は、「箒の道(Besenstrasse)」と呼ばれており、毎年、安全を考えて修正されている。片道で約2時間半も歩くことになるので、ここでは馬車が活躍している。かつては郵便馬車しかなかったそうだが、今では何十台もの観光馬車が出ている。歩いて、あるいは馬車に乗って島にゆけるのは、3月から11月まで。馬車を使っても片道1時間半はかかる。

今年の6月、馬車でノイヴェルク島を訪れた。まだ肌寒く、馬車の座席には毛布が用意されていて、皆、それにくるまって、冷たい潮風を浴びた。引き潮どきのヴァットは、生き物たちの宝庫。無数のワーム(蠕虫)がうごめいている形跡、黒く染まった、いくつもの貝類が生きているコロニー、そして白く染まった、死に絶えた貝類のコロニー。一帯は自然保護地域に指定されていて、漁は禁じられている。

この島は、約700年前からハンブルク領であったという。1310年に完成した煉瓦造りの塔は、1360年代に火災に遭ったが、その後再建され、現存するハンブルク市最古の建築物であるという。当初は海賊の襲撃の防御のために造られたそうだが、洪水時の避難場所としても活用されていた。灯台に改築されたのは、19世紀にはいってからで、ドイツ最古の灯台でもある。

ノイヴェルク島は、20世紀前半に、プロイセン領、そしてニーダーザクセン領であった時期があるが、1969年に再びハンブルク市の管轄となった。ハンブルク市はここに、コンテナ船やタンカー、豪華客船など、大型船用の港を建設する予定だったのだが、それは実現しなかった。おかげで、この広大な生態系は守られ、こうして、干潟歩きを楽しむことができる。

現在の島民は約40人。夏場には毎年12万人の観光客が訪れ、宿泊施設も整っている。

来年、お出かけになる方へ
私は以下の事務所で馬車を予約しました。馬車はこの事務所前から出発します。潮の干満は、毎日時間が異なるので、馬車の出発時間も毎日異なります。シーズンになると、ネット上に発表される出発時間のリストを参照なさってください。

Ing. Büro Peter Mendikowski
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