WINE・WANDERING ワイン彷徨通信
 
 
002「イタリア移民のワインの祭典」

今年の2月、ブラジルのワイン生産地に出かけた。ブラジルワインの旅はもう4度目になる。主要生産地は、ブラジル最南のリオ・グランジ・ド・スル州で、その中心地が人口約12万人のベント・ゴンサウヴェスだ。

サンパウロからリオ・グランジ・ド・スル州の州都、ポルトアレグレの空港に到着すると、電車でバスターミナルまで移動し、そこからバスでベント・ゴンサウヴェスを目指す。片道およそ100kmほどの旅だ。

ベント・ゴンサウヴェスに至るまで、ドイツ系の名前が付けられている村や町を沢山通り過ぎる。ドイツ人はイタリア人よりも先に入植し、州都ポルトアレグレに近い利便性が良く、開拓しやすい平地に定住したため、イタリア人はその奥の土地を切り開かければならなかったという。

ベント・ゴンサウヴェスの辺りは、1875年に730人のイタリア人移民が入植することによって発展したという。主要産業は農業で、現在ではワインの街として名高い上、実に美味しい昔ながらのイタリア料理が味わえる。まさにイタリア移民の造るワインと食の里。南半球のもうひとつのイタリア。イタリア好きにはたまらない場所だ。

今年は、念願だったベント・ゴンサウヴェスのブラジルワインフェスティバル「フェナヴィーニョ(FENAVINHO)」を訪ねることができた。このワインの祭典は1967年に地元のワイン産業の振興のためにスタートし、現在では隔年開催、42年もの伝統がある。フェアの会期はなんと1ヶ月(2009年は1月30日から2月24日まで)。各ワイナリーのブースの他に、農業機械、醸造設備、あらゆる食品が出展され、この街の一大農産業見本市の様相を呈している。

会場に入って驚いた。素人であっても、会場を一巡りすれば、ある程度のワインの知識が身に付くような構成になっている。壁面にはぶどう品種の説明やテイスティング方法がわかりやすく大書され、実際に香りを学習できる装置も備えられている。一般向けのワインテイスティング講座も連日開催されている。講座に参加した後に、醸造所のブースを丹念に回れば、1日で、かなりのワインの勉強ができる。こんなワインの学校のような見本市は初めてだ。

会場を一周し、一番驚いたのが、完璧なる「ワインぶどう」のコンテスト。ワインのみならず、育てられたぶどうのフォルムの美しさまでがこうして評価されている。品種別のショウケースの中には、受賞した美人ぶどうが展示されている。どの品種が、どのような葉と房のフォルムを持ち、どのようなサイズの粒を持つのかが一目瞭然。この現物のぶどうたちは、会場において圧倒的な存在感を放っていた。

フェスティバルのクライマックスは、日没後、屋外で行われる「ワイン・オペラ」。ワインの歴史、そしてイタリア移民たちよってもたらされたベント・ゴンサウヴェスのワイン造りの歴史を、子供たちにもわかるようにアレンジした大衆オペラ(Ópera Popular do Vinho)だ。幼い頃から、このようなオペラに親しんで育つ子供たちの多くは、きっとワインに興味を持つ大人になることだろう。

ベント・ゴンサウヴェスにいると、ぶどうこそが、そしてワインこそがこの土地の「幸」なのだと、意識せずにはいられない。
 
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