WINE・WANDERING ワイン彷徨通信
建設中だった2004年当時の醸造所
当時、醸造所内はまだこんな状態だった
収穫されたぶどうを搬入段階からコンピューターで管理
ルシンド・コパートさん
015「ブラジルワイン紀行3 サウトン醸造所 Vinícola Salton」
2004年に初めて訪問した時、サウトン醸造所はまだ、ベント・ゴンサウヴェス市の街中にあった。そして、この街中の醸造所が手狭になったため、ベント・ゴウサウヴェスの北およそ10キロのトゥイウティ(Tuiuty)に、新しい醸造所を建設しているところだった。ワイン醸造の設備はすでに新醸造所に移転しており、旧醸造所ではぶどうジュースだけが生産されていた。新醸造所が完成したら、ここはワイン博物館に改築されるということだった。
醸造責任者のルシンド・コパート(Lucindo Copat)さんの案内で、旧醸造所を見学した後、工事中の新醸造所に向かった。そこは、醸造所というよりも、ワインの宮殿という名がふさわしい真っ白で巨大な殿堂。広さは2万6千平米だという。まるで体育館のような内部は、いまだ1つの大きな空間で、オーク樽の並ぶ空間だけが仕切られていた。完成時には、この「宮殿」に、図書館、テイスティングルーム、ブティック、そしてレストランも揃うという。また、観光客がワインづくりの全工程を自由に見学できる、ブラジル最大級のワイナリーを目指し、醸造所内を縫うように、見学用のブリッジがはり巡らされることになるという。
サウトン醸造所は、ベネチア出身のサウトン家が1910年にベント・ゴンサウヴェスに創業した、ブラジルでもっとも伝統ある醸造所のひとつ。ルシンドさんは醸造家歴30年。サウトンで醸造を担当して20年になる。サウトン醸造所に来る前は、アルゼンチン、メンドーサのワイナリーで働いていたそうだ。自社畑は75ヘクタールだが、約1000世帯の提携農家からぶどうを買い取っている。
私が訪問した時は、ちょうど収穫したソーヴィニヨン・ブランが届いたばかり。ハイテクの新醸造所では、ぶどうが運び込まれた時点から、全行程がコンピューター管理されている、醸造所内はもちろん、発酵タンクの温度調節も、撹拌も、何もかもがプログラミングされている。6万リットルの発酵用タンクや50万リットルの熟成用タンクを初めて目のあたりにし、その大きさに圧倒される。
ルシンドさんとラボに入り、発酵中のシャルドネを3種類テイスティングさせていただいた。フローラル系の香りや柑橘系のフルーティな味わいを感じ、最初は別品種ではないかと思ってしまった。しかし、苗はフランスのクローンだという。サウトン醸造所は、白ワインにも力を入れており、シャルドネだけでも年間30万リットルほど生産している。ルシンドさんは「玄武岩の多いセハ・ガウシャは白ワインの大地でもある」と言う。
ルシンドさんは10年前からオーク樽熟成のワインも造りはじめた。シャルドネのエスプマンチにも、一部オーク樽熟成させたベースワインを使用しているという。フランス産、アメリカ産のオークが中心だが、ハンガリー産のオーク材を輸入し、ブラジルで製造させている樽もある。
イタリア系ブラジル人の画家、ヴォルピ(Volpi)の名前を冠したシャルドネ・ヴォルピは、アメリカンオークで6ヶ月熟成させたシャルドネを2割ブレンドしており、バターやナッツの香ばしさが感じられる。エスプマンチ・レゼルヴァ・オウロはシャルドネ80%、リースリング・イタリコ(ヴェルシリースリング)20%のフレッシュ&フルーティなスパークリングワインだった。ブラジルで出会うワインは、ほとんどが赤か、白ならエスプマンチ。味わい豊かな南国シャルドネのテイスティングは貴重な体験だった。
2008年8月、ジャーナリストグループのメンバーとして、すっかり完成した醸造所を再訪することができた。到着したのは夜の10時ごろで、白く巨大な宮殿は、美しくライトアップされ、完璧な静寂の中で、前庭の豪華な噴水の水しぶきの音だけが響いている。広々としたエントランス。階段の踊り場には、ダ・ヴィンチの壁画「最後の晩餐」のパロディー。醸造所のスタッフらが、キリストの12人の弟子として描かれている。何もかもまっさらな宮殿は、一見映画のセットのようだが、時を経て、伝統の厚みが生まれて来るはずだ。
私はサウトン醸造所のワインが好きだ。とりわけ、Salton Desejo(願望)という名のメルロー。そしてカベルネソーヴィニヨン60%、メルロー30%、タナ10%をブレンドしたSalton Talento。この2つのワインは、内外での評価も高く、味わい豊かで充足を感じるワイン。このほか、赤ではカベルネフラン種、カルメネーレ種、北イタリア、トレンティーノの土着品種であるテロルデゴ種、白ではゲヴュルツトラミーナ種などを、それぞれ単独で醸造したワインなど、個性的なワインが揃っている。
深夜の醸造所見学はこの日が初めて。ライトダウンされた醸造所で、新しい見学用ブリッジの上を空中散歩していると、だんだんと現実感が薄れてくる。醸造所のとてつもないスケールの大きさに圧倒され、ブラジルワイン市場の急成長ぶりを感じた夜だった。
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2004年に初めて訪問した時、サウトン醸造所はまだ、ベント・ゴンサウヴェス市の街中にあった。そして、この街中の醸造所が手狭になったため、ベント・ゴウサウヴェスの北およそ10キロのトゥイウティ(Tuiuty)に、新しい醸造所を建設しているところだった。ワイン醸造の設備はすでに新醸造所に移転しており、旧醸造所ではぶどうジュースだけが生産されていた。新醸造所が完成したら、ここはワイン博物館に改築されるということだった。
醸造責任者のルシンド・コパート(Lucindo Copat)さんの案内で、旧醸造所を見学した後、工事中の新醸造所に向かった。そこは、醸造所というよりも、ワインの宮殿という名がふさわしい真っ白で巨大な殿堂。広さは2万6千平米だという。まるで体育館のような内部は、いまだ1つの大きな空間で、オーク樽の並ぶ空間だけが仕切られていた。完成時には、この「宮殿」に、図書館、テイスティングルーム、ブティック、そしてレストランも揃うという。また、観光客がワインづくりの全工程を自由に見学できる、ブラジル最大級のワイナリーを目指し、醸造所内を縫うように、見学用のブリッジがはり巡らされることになるという。
サウトン醸造所は、ベネチア出身のサウトン家が1910年にベント・ゴンサウヴェスに創業した、ブラジルでもっとも伝統ある醸造所のひとつ。ルシンドさんは醸造家歴30年。サウトンで醸造を担当して20年になる。サウトン醸造所に来る前は、アルゼンチン、メンドーサのワイナリーで働いていたそうだ。自社畑は75ヘクタールだが、約1000世帯の提携農家からぶどうを買い取っている。
私が訪問した時は、ちょうど収穫したソーヴィニヨン・ブランが届いたばかり。ハイテクの新醸造所では、ぶどうが運び込まれた時点から、全行程がコンピューター管理されている、醸造所内はもちろん、発酵タンクの温度調節も、撹拌も、何もかもがプログラミングされている。6万リットルの発酵用タンクや50万リットルの熟成用タンクを初めて目のあたりにし、その大きさに圧倒される。
ルシンドさんとラボに入り、発酵中のシャルドネを3種類テイスティングさせていただいた。フローラル系の香りや柑橘系のフルーティな味わいを感じ、最初は別品種ではないかと思ってしまった。しかし、苗はフランスのクローンだという。サウトン醸造所は、白ワインにも力を入れており、シャルドネだけでも年間30万リットルほど生産している。ルシンドさんは「玄武岩の多いセハ・ガウシャは白ワインの大地でもある」と言う。
ルシンドさんは10年前からオーク樽熟成のワインも造りはじめた。シャルドネのエスプマンチにも、一部オーク樽熟成させたベースワインを使用しているという。フランス産、アメリカ産のオークが中心だが、ハンガリー産のオーク材を輸入し、ブラジルで製造させている樽もある。
イタリア系ブラジル人の画家、ヴォルピ(Volpi)の名前を冠したシャルドネ・ヴォルピは、アメリカンオークで6ヶ月熟成させたシャルドネを2割ブレンドしており、バターやナッツの香ばしさが感じられる。エスプマンチ・レゼルヴァ・オウロはシャルドネ80%、リースリング・イタリコ(ヴェルシリースリング)20%のフレッシュ&フルーティなスパークリングワインだった。ブラジルで出会うワインは、ほとんどが赤か、白ならエスプマンチ。味わい豊かな南国シャルドネのテイスティングは貴重な体験だった。
2008年8月、ジャーナリストグループのメンバーとして、すっかり完成した醸造所を再訪することができた。到着したのは夜の10時ごろで、白く巨大な宮殿は、美しくライトアップされ、完璧な静寂の中で、前庭の豪華な噴水の水しぶきの音だけが響いている。広々としたエントランス。階段の踊り場には、ダ・ヴィンチの壁画「最後の晩餐」のパロディー。醸造所のスタッフらが、キリストの12人の弟子として描かれている。何もかもまっさらな宮殿は、一見映画のセットのようだが、時を経て、伝統の厚みが生まれて来るはずだ。
私はサウトン醸造所のワインが好きだ。とりわけ、Salton Desejo(願望)という名のメルロー。そしてカベルネソーヴィニヨン60%、メルロー30%、タナ10%をブレンドしたSalton Talento。この2つのワインは、内外での評価も高く、味わい豊かで充足を感じるワイン。このほか、赤ではカベルネフラン種、カルメネーレ種、北イタリア、トレンティーノの土着品種であるテロルデゴ種、白ではゲヴュルツトラミーナ種などを、それぞれ単独で醸造したワインなど、個性的なワインが揃っている。
深夜の醸造所見学はこの日が初めて。ライトダウンされた醸造所で、新しい見学用ブリッジの上を空中散歩していると、だんだんと現実感が薄れてくる。醸造所のとてつもないスケールの大きさに圧倒され、ブラジルワイン市場の急成長ぶりを感じた夜だった。