WINE・WANDERING ワイン彷徨通信
 
 
009「カーヴ・アンチーガ訪問記3」

リオ・グランジ・ド・スル州のぶどう栽培農家の所有畑は、ジョアン=カルロスの実家の畑のように小規模だ。ほとんどの農家が、2ヘクタールから大きくても5ヘクタールどまりで、伝統的な棚式栽培(ラターダ)を採用している。垣根式栽培(グイヨーなど)を行うと、収穫量が激減し、一家が食べて行けなくなるという。いまだ、同州の7割の農家が棚式栽培で、アメリカ品種を栽培している。

思い切った投資をして、垣根栽培に移行している農家はごくわすかで、全体の5-10%ほど。中規模以上の農家や、醸造所の所有畑にしかできないことだ。

ジョアン=カルロスのように、ヨーロッパ品種を棚式で栽培しているのは、その中間をゆく妥協策でもある。棚式にもいろいろあり、ジョアン=カルロスが採用しているのは、1列ごとに空間があって、空が見える開放型だ。「ラターダだと、1ヘクタールあたり20トン、いや場合によっては30トン近いぶどうが収穫できる。でも僕はそれを10トンに抑えている。10トンのぶどうは、果汁でだいたい65ヘクトリットルくらいかな」。

しかし近い将来、ヴィーティス・ヴィニフェラに関しては垣根栽培への移行は避けて通れないという。では、といって棚式で再びアメリカ品種を栽培するわけにもいかない。「諸刃の剣だよ」そうジョアン=カルロスは言う。

コチポラのあたりは、周囲にバナナやパパイアも生えていれば、さとうきびも収穫できるほど。ブラジル南端であるものの、気候には非常に恵まれた土地だ。雨も多いが、すぐに乾燥する。雑草の生え方に大変な勢いがある。コチポラのぶどう畑は全く緑化していないのだが、畝の間は青草でいっぱいだ。「これが垣根栽培だと、雑草が邪魔になるので、刈ってやらないといけないが、棚式栽培なら、どんなに雑草が茂ってもぶどうに届かないし、放っておけば、自然に暑さと乾燥で枯れて肥料となってくれる」。棚式栽培の利点のひとつだ。「自然に生えてくるそれぞれの雑草に、それぞれのサイクルがある。そして、それがこの土壌の本来の姿。雑草は雑草で、そのサイクルを淡々とこなしているわけで、ぶどうがそれと共生している」。

世界の多くのぶどう畑が、垣根式をベストとして猛進している。やがて、棚式はすっかり失われてしまうのだろうか。日頃楽しむワインのすべてに、極限に向かう凝縮感が必要なのだろうか。

100年の伝統が息づく、気持ち良いぶどう畑を散策しながら、この、涼しげな、ぶどうにとっても居心地がよさそうな棚が失われないことを願っていた。
 
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