WINE・WANDERING ワイン彷徨通信
 
 
010「カーヴ・アンチーガ訪問記4」

ジョアン=カルロスが一番力をいれているワインはエスプマンチ。スパークリングワインのことだ。彼がシャルマ製法で作る清涼感ある甘口のモスカテルは、創業以来、ほぼ毎年のように、国内外のワインコンテストでシルバーメダル、ゴールドメダルを獲得している。4年前に訪問した時に、醸造所には1本の在庫もなく、造った本人がスーパーまで買いに走ってくれた、あのエスプマンチだ。

エスプマンチはそれくらいよく売れる。ブラジル全土で、毎年2千万リットル近いエスプマンチが生産されているそうだ。あのビール大国で、大人1人当りの年間消費量が平均3リットルというデータもある。

ジョアン=カルロスは今後、4種類のエスプマンチを並行して生産してゆきたいと言う。モスカテルのほか、同じくシャルマ製法のブリュット・プロセッコ&ショーンブルガー、ブリュット・ロゼ、そして伝統製法(シャンパン製法)のシャルドネだ。前者3種はすでにリリースされている。伝統製法のシャルドネは今、初めての600本がセラーで瓶内発酵を終え、デゴージュマンの時を待ち受けている。

ブリュット・プロセッコ&ショーンブルガーなんていうエスプマンチは、他に世界のどこを探しても見つからないだろう。「ショーンブルガーを生産しているのはアメリカ地域では僕だけじゃないかな」、とジョアン=カルロス。

ショーンブルガーは、もともとの産地であるドイツでは、ほぼ消滅しつつある。果皮がローズ色をした白品種で、ピノ・ノワールとピロヴァーノの交配だ。ピロヴァーノはグートエーデルとマスカット・ハンブルクの交配だという。ジョアン=カルロスがもう23年も勤務している農業研究所で研究用に栽培されていたのだが、彼は早くからこの品種の可能性に気づいていた。

「ショーンブルガーは、熟して黄色く変色する頃に収穫すると、フローラルな香りが引き立っている。更に収穫期を待ち、果皮がピンクに染まって来ると、こんどはモスカテルのようなフルーティな香りが引き立って来る。2段階の顔をもつんだ」と彼。栽培量が非常に少ないので、単独ではリリースできず、いまのところ、ジョアン=カルロスのブリュットにブレンドされているだけだ。メインとなるプロセッコは懇意にしている農家からの買い取り。この地域では20年前からプロセッコが栽培されているという。

ブリュット・ロゼのほうは、カベルネソーヴィニヨンとピノ・ノワール、そしてシャルドネのブレンド。とってもブラジル的、情熱的なサーモンピンクのロゼだ。

売れ筋のモスカテルは、様々なモスカテル種のブレンドである。「昔はモスカート・エンブラパという研究所が交配したモスカート種が好んで使われていた。とにかく大量に収穫できる品種だったからね。でも今は誰もこの品種を植えようとはしない。本来のモスカテル種(多種類ある)が好まれている。量より質を重視するようになってきているんだ」とジョアン=カルロス。「品質のよいモスカテルは、3、4年おいてボトリングすると、オレンジのような素敵なアロマがでてくる。ちょうど、シャンパンを瓶内発酵後、デゴージュマンしないで何年も置いておくと、独特のアロマが生まれてくるようにね」。その秘密は、まだ研究では解き明かされていない。「こういったことを研究しながら、ブラジルらしい、この地域にしかない特徴のあるモスカテルを造り出してゆきたい」そう彼は意気込む。

ブラチ川(Buratti)の流れる谷で起業して約10年。醸造所はまだまだ地盤固めの段階だが、心強い仲間がいる。カーヴ・アンチーガ1社だけでは購入できない高価な醸造設備は、仲間の醸造所4社で共同購入しているのである。機材の置き場はそのうちの1社、ガリバルディ醸造協同組合のスペースを利用している。グループ以外の醸造所も、その設備を利用できるようにし、地域で互いに助け合ってワインづくりを行っているのである。
 
ARCHIV