WINE・WANDERING ワイン彷徨通信
醸造責任者のルシアーノさん
Y字型棚式栽培
光あふれる開放的な畑
瓶熟成中のカベルネフラン
ドン・ジョヴァンニのワイン
021「ブラジルワイン紀行 その9 ドン・ジョヴァンニ醸造所(Don Giovanni)」
ドン・ジョヴァンニ醸造所のある通り、ピント・バンデイラ通りは、1960年代まで、ベント・ゴンサウヴェスとポルトアレグレを繋ぐ通商路だったそうだ。そしてこの通りには1930年代からブランデーの蒸留所があった。アイルトン・ジョヴァンニさん、ベアトリーツ・ドレイアーさん夫妻は、1996年に、その蒸留所を買い取り、ドン・ジョヴァンニ醸造所を興したという。二人は、醸造所だけでなく、ポウサーダも経営している。
醸造所は本当に美しい環境にあった。海抜640メートル。アーティーチョーク畑があり、ブラジル松が茂り、キーウイが実り、きのこ狩りができる、そんな場所だ。
醸造所では、ベアトリーツさんと醸造責任者のルシアーノ・ヴィアンさんが迎えてくれた。ベアトリーツさんの話によると、購入した蒸留所はドレイアー家の所有だったそうだ。ドレイアー家はかつで、広大なぶどう畑を所有し、主にオクセロワ種のぶどうから、ブランディを製造していたという。ベアトリーツさんはそのドレイアー家の遠縁である。
2人は趣味でぶどう栽培を始めたそうで、醸造所を興すという感じではなかったという。やがて、子供たちが成長すると、ポウサーダ(宿泊施設)とレストランを始めた。本格的にワインを醸造し、販売するようになったのは2000年になってから。しかし、2人はすでに90年代から、将来のことを考えた畑づくりはしていた。つまり、将来性のある品種、カベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、メルロー、タナ、シャルドネ、ピノ・ノワールなどを次々に植えていったのである。所有畑は14ヘクタール。顧客のほとんどが、ポウサーダの宿泊客だという。
ルシアーノさんは創業時からの醸造責任者である。ヨーロッパ品種を使った高級ワインの生産が主だが、この地でポピュラーだったアメリカ品種のイザベルを使ったテーブルワインとイザベルのブランディも生産している。ドレイアー蒸留所の伝統をほんのちょっと引き継いでいるわけだ。また、ご自慢はシャンパーニュ製法のエスプマンチ。オーク樽熟成のワインもつくりはじめている。
2004年の収穫直前に訪問したとき、ルシアーノさんに畑に案内してもらった。ドン・ジョヴァンニ醸造所の畑は、これまでに見たどの畑とも違っていた。それはラターダと呼ばれる棚式栽培なのだが、棚はY字型に広がっていて、棚を成すほどには枝を延ばしていない。ぶどうにはたっぷり光があたっていた。この栽培法も、ドン・ラウリンド醸造所の実践しているラターダ・アベルタ(開放型棚式栽培)の変型である。「ブラジルは湿気が多いのでこのシステムにしたんだ。葉も充分日光にあたるように配慮している。間引きは4、5回やっているし、不必要な葉も取り除いているよ」。よく手入れされていることがひと目でわかる、とても居心地の良い畑だった。
「ワインづくりおいては、小さなことがいくつも複雑にからんでくる。ぶどうの品質について言えば、まず完熟することが大事。最低19バボ(約95エクスレ)は必要だ。でも、バボのレベルだけでなく、ぶどうのもつタンニンの量、酸の量、熟成のバランス、あらゆる要素が理想的な状態で収穫しなければならない」。熟したぶどうを手にしながら、ルシアーノさんが言う。他に訪問した醸造所では、たいてどこでも白ワイン品種の収穫がはじまっていたが、ルシアーノさんはまだ、何も収穫していない。来週あたりに、まずシャルドネを収穫しようかと考えているところだという。「ぶどうはね、質が悪いと、発酵もさっさとすんでしまう。品質のいいぶどうほど、発酵もゆっくりなんだ。」
ドン・ジョヴァンニ醸造所がリリースしているのはワイン6種類、エスプマンチ1種類、ブランディ1種類だけだ。印象的だったのが、2002年のフレンチオーク仕立てのシャルドネ。こんなエレガントなシャルドネには、ブラジルではまだお目にかかっていない。バナナの香りがたちのぼり、オークの香りが上品。2002年のカベルネフランには、パッションフルーツの味と香りを発見して驚いた。2000年のタナは男性的なワイン。ほんのりココアやチョコレートの香りがする。「フェイジョアーダ」(ブラジル名物の豚肉と内臓、そして豆の煮込み料理)にぴったりだと、とルシアーノさんが言う。
エスプマンチも期待どおりの美味しさだった。シャンパーニュ製法でつくられたドン・ジョヴァンニ・ブリュットはピノ・ノワール、シャルドネ、リースリング・ヘナーノをあわせたもので、ドサージュゼロ。それにあわせて、ベアトリーツさんが茄子の冷製ラタトウイユを出してくださった。
「果汁は一番いい部分しか使っていない。あと、瓶内二次発酵は12度に調節している。それは細かい質のよい泡を得るためなんだ。高温になると酵母たちは元気になりすぎて、瓶内の砂糖を大きな口でパクパク食べててしまう。だから、泡が大きくなるんだ。でも低温で二次発酵させると、酵母はゆっくりゆっくり活動し、小さな口で砂糖を食べていくから、泡もキメ細かくなる。本当にそのほうがパールが美しくなるんだ」。ルシアーノさんは、瓶内二次発酵後、どれだけ酵母と接触させたまま寝かせればいいのかを熱心に研究されている。「二次発酵がすんで10ヶ月くらいになるとね、レモン系の香りが強くなる。パイナップルやりんごの香りもする。10ヶ月以上たつと、今度は、砂糖を食べ尽くして死んだ酵母が徐々に爆発を起こし、プロテインがでてくる。理想的なのは、二次発酵後、14〜16ヶ月目にデゴージュマンすること」。そうルシアーノさんは言う。
ルシアーノさんも、セハ・ガウシャ、特にピント・バンデイラのあたりの土壌は、エスプマンチ用の品種づくりに向いていると言う。「このエリアが、白ワインとエスプマンチに向くと言い出したのは、チリ人で、アマデウ醸造所のオーナーであるマリオ・ガイスなんだ」。チリのぶどう畑は高度があり、朝晩の気温差が激しく、そのためにぶどうの味が凝縮され、ポリフェノールも増え、色も良くなる。ピント・バンデイラはそんなチリのぶどう畑の気候に似ているという。そして、この地域のワインは、ヴィーニョス・ジ・モンターニャ(山のワイン)と呼ばれているのである。
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ドン・ジョヴァンニ醸造所のある通り、ピント・バンデイラ通りは、1960年代まで、ベント・ゴンサウヴェスとポルトアレグレを繋ぐ通商路だったそうだ。そしてこの通りには1930年代からブランデーの蒸留所があった。アイルトン・ジョヴァンニさん、ベアトリーツ・ドレイアーさん夫妻は、1996年に、その蒸留所を買い取り、ドン・ジョヴァンニ醸造所を興したという。二人は、醸造所だけでなく、ポウサーダも経営している。
醸造所は本当に美しい環境にあった。海抜640メートル。アーティーチョーク畑があり、ブラジル松が茂り、キーウイが実り、きのこ狩りができる、そんな場所だ。
醸造所では、ベアトリーツさんと醸造責任者のルシアーノ・ヴィアンさんが迎えてくれた。ベアトリーツさんの話によると、購入した蒸留所はドレイアー家の所有だったそうだ。ドレイアー家はかつで、広大なぶどう畑を所有し、主にオクセロワ種のぶどうから、ブランディを製造していたという。ベアトリーツさんはそのドレイアー家の遠縁である。
2人は趣味でぶどう栽培を始めたそうで、醸造所を興すという感じではなかったという。やがて、子供たちが成長すると、ポウサーダ(宿泊施設)とレストランを始めた。本格的にワインを醸造し、販売するようになったのは2000年になってから。しかし、2人はすでに90年代から、将来のことを考えた畑づくりはしていた。つまり、将来性のある品種、カベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、メルロー、タナ、シャルドネ、ピノ・ノワールなどを次々に植えていったのである。所有畑は14ヘクタール。顧客のほとんどが、ポウサーダの宿泊客だという。
ルシアーノさんは創業時からの醸造責任者である。ヨーロッパ品種を使った高級ワインの生産が主だが、この地でポピュラーだったアメリカ品種のイザベルを使ったテーブルワインとイザベルのブランディも生産している。ドレイアー蒸留所の伝統をほんのちょっと引き継いでいるわけだ。また、ご自慢はシャンパーニュ製法のエスプマンチ。オーク樽熟成のワインもつくりはじめている。
2004年の収穫直前に訪問したとき、ルシアーノさんに畑に案内してもらった。ドン・ジョヴァンニ醸造所の畑は、これまでに見たどの畑とも違っていた。それはラターダと呼ばれる棚式栽培なのだが、棚はY字型に広がっていて、棚を成すほどには枝を延ばしていない。ぶどうにはたっぷり光があたっていた。この栽培法も、ドン・ラウリンド醸造所の実践しているラターダ・アベルタ(開放型棚式栽培)の変型である。「ブラジルは湿気が多いのでこのシステムにしたんだ。葉も充分日光にあたるように配慮している。間引きは4、5回やっているし、不必要な葉も取り除いているよ」。よく手入れされていることがひと目でわかる、とても居心地の良い畑だった。
「ワインづくりおいては、小さなことがいくつも複雑にからんでくる。ぶどうの品質について言えば、まず完熟することが大事。最低19バボ(約95エクスレ)は必要だ。でも、バボのレベルだけでなく、ぶどうのもつタンニンの量、酸の量、熟成のバランス、あらゆる要素が理想的な状態で収穫しなければならない」。熟したぶどうを手にしながら、ルシアーノさんが言う。他に訪問した醸造所では、たいてどこでも白ワイン品種の収穫がはじまっていたが、ルシアーノさんはまだ、何も収穫していない。来週あたりに、まずシャルドネを収穫しようかと考えているところだという。「ぶどうはね、質が悪いと、発酵もさっさとすんでしまう。品質のいいぶどうほど、発酵もゆっくりなんだ。」
ドン・ジョヴァンニ醸造所がリリースしているのはワイン6種類、エスプマンチ1種類、ブランディ1種類だけだ。印象的だったのが、2002年のフレンチオーク仕立てのシャルドネ。こんなエレガントなシャルドネには、ブラジルではまだお目にかかっていない。バナナの香りがたちのぼり、オークの香りが上品。2002年のカベルネフランには、パッションフルーツの味と香りを発見して驚いた。2000年のタナは男性的なワイン。ほんのりココアやチョコレートの香りがする。「フェイジョアーダ」(ブラジル名物の豚肉と内臓、そして豆の煮込み料理)にぴったりだと、とルシアーノさんが言う。
エスプマンチも期待どおりの美味しさだった。シャンパーニュ製法でつくられたドン・ジョヴァンニ・ブリュットはピノ・ノワール、シャルドネ、リースリング・ヘナーノをあわせたもので、ドサージュゼロ。それにあわせて、ベアトリーツさんが茄子の冷製ラタトウイユを出してくださった。
「果汁は一番いい部分しか使っていない。あと、瓶内二次発酵は12度に調節している。それは細かい質のよい泡を得るためなんだ。高温になると酵母たちは元気になりすぎて、瓶内の砂糖を大きな口でパクパク食べててしまう。だから、泡が大きくなるんだ。でも低温で二次発酵させると、酵母はゆっくりゆっくり活動し、小さな口で砂糖を食べていくから、泡もキメ細かくなる。本当にそのほうがパールが美しくなるんだ」。ルシアーノさんは、瓶内二次発酵後、どれだけ酵母と接触させたまま寝かせればいいのかを熱心に研究されている。「二次発酵がすんで10ヶ月くらいになるとね、レモン系の香りが強くなる。パイナップルやりんごの香りもする。10ヶ月以上たつと、今度は、砂糖を食べ尽くして死んだ酵母が徐々に爆発を起こし、プロテインがでてくる。理想的なのは、二次発酵後、14〜16ヶ月目にデゴージュマンすること」。そうルシアーノさんは言う。
ルシアーノさんも、セハ・ガウシャ、特にピント・バンデイラのあたりの土壌は、エスプマンチ用の品種づくりに向いていると言う。「このエリアが、白ワインとエスプマンチに向くと言い出したのは、チリ人で、アマデウ醸造所のオーナーであるマリオ・ガイスなんだ」。チリのぶどう畑は高度があり、朝晩の気温差が激しく、そのためにぶどうの味が凝縮され、ポリフェノールも増え、色も良くなる。ピント・バンデイラはそんなチリのぶどう畑の気候に似ているという。そして、この地域のワインは、ヴィーニョス・ジ・モンターニャ(山のワイン)と呼ばれているのである。